中核的人材育成

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文部科学省「成長分野における中核的専門人材養成等の戦略推進事業」

長崎の地域特性を考慮したインフラ再生技術者育成のためのカリキュラム構築(略称:中核的人材育成)

(1)事業の目的・概要
平成25年度に産学官連携コンソーシアムで開発したコアカリキュラムとローカルカリキュラムを活用して、長崎において、地元の企業、業界団体、自治体等の人財ニーズを踏まえたオーダーメイド型教育プログラムの開発を行う。さらに長崎の地域特性を考慮し、社会人が学びやすい学習環境を提供するために、e-ラーニングやテレビ会議システムの活用と学習ユニット積み上げ方式教育プログラムの開発・実証を行う。

(2)事業の実施意義や必要性について
①当該分野における人財需要等の状況、それを踏まえた事業の実施意義
高度経済成長期に集中的に整備されたインフラが更新の時期を迎えつつあるが、公共投資を取り巻く環境は厳しさを増し、効率的かつ戦略的な施設の維持管理手法が求められている。また、建設業就業者数もピーク時である1993年の73%にまで落ち込み、そして技術者の高齢化が進んでいる。国土交通省によれば、建設後50年以上経過した道路橋は平成32年度には26%、排水機場、水門等では37%にものぼり、インフラの老齢化が今後劇的に進行する。東日本大震災だけでなく、各地で猛威を振るう自然の厳しさの中、利便性だけでなく安全なインフラの重要性が認識されつつあるが、老朽化インフラが増加する一方で、インフラ再生を担う技術者が圧倒的に不足している。さらには自然環境・要求性能などに対応するインフラ整備技術の多様化もあり、技術が細分化されることで、俯瞰した総合力を有する技術者が減少しており、技術の伝承と発展の継続に関する困難さも大きな問題となっている。
上記の問題を解決すべく長崎大学と岐阜大学では、科学技術戦略推進費事業によりインフラの維持管理を担う技術者の養成を実施した。図1-1に長崎大学の実施例を示すが、連携自治体および地域建設業界を巻き込んだ体制を確立することにより、産官学の垣根のない「技術と知識に基づく人的ネットワーク」が形成されることで立場の枠を超えたコミュニケーションが可能となることが証明された。育成された人財は、県職員と県職員OBとで毎年実施している橋梁、斜面、トンネル点検に参加している。さらに、身近なインフラ構造物の異常を発見し、スマートフォンやPCを活用して道路管理者に報告を行う「道守ポータル」の活用も行っており、県内の安全安心な社会の形成に貢献している。これらの取り組みは、インフラの維持管理における人財不足を解決するために長崎県で独自に実施されたものであり、全国的にも極めて先駆的な取り組みである。以上のことから、地域再生を担うインフラ再生技術者育成事業の重要性を確認するとともに、今後継続して検討すべきテーマを以下のように抽出した。
・実践知(実務経験)と形式知(技術理論と倫理観)を併せ持った技術者が必要
・発注者と受注者が同等の技術/知識レベルを持って対等に事業に取り組む必要がある
・どの地域でも適応可能な基礎技術とそれを応用できる知識が必要
・地域に根ざした技術者の育成(絶対数の確保)が必要

これらのテーマに対し、本事業を通して戦略的なインフラ再生技術者の育成と活用する仕組みを構築し、地域でリーダーとなれる人財を各地に輩出し、地域でのインフラに関する問題解決を担うことが今後の課題といえる。
図1-1

②取組が求められている状況、本事業を推進する必要性
インフラ施設の維持管理や再生は、全国的に深刻な問題となりつつあり、全国で通用する一定レベル以上の技術者を育成できるカリキュラム(コアカリキュラム)および地域の事情に適応したローカルカリキュラムを設計することの意義は大きい。
本事業で推進する人財育成プログラムは、これまで科学技術戦略推進費によってインフラ施設の維持管理技術者を育成してきた岐阜大学と長崎大学が協力することで、はじめて可能になる事業であり、発注者と受注者という関係に依存しない大学という教育機関だからこそ成し得るものである。また、このような人財の必要性は岐阜、長崎に限定されるものではなく、全国的にも取り組む必要性がある。今後、人財育成事業のコア・ローカルカリキュラムが確立されれば、全国への展開に弾みがつくものと考えられる。
さらにもう一つ、インフラ維持管理に携わる技術者の高齢化問題も深刻となっている。それを補うために、社会人教育だけでなく、インフラ再生技術に関する技術を有する新卒者の輩出も視野に入れるべきである。そのためには、この分野を確立し、学部・大学院教育へと展開していくよう、大学が中心となって進めていく必要がある。将来的には、インフラ構造物の維持管理に関して全く目を向けていないアジア諸国からの留学生を受け入れ、我が国のインフラ再生技術の国際展開を視野に入れていくことが重要である。

(3)実施概要
事業計画
①会議

本職域プログラムは、産学官コンソーシアムで検討を進める人財育成のコア・ローカルカリキュラムの実証事業を主に担い、それらの活用を視野に入れた議論を進める。
(a)“道守”養成ユニット運営協議会
目  的:産学官コンソーシアム(全体)での議論を受け、養成する人財の地域での活動内容や活用方法を議論する。また、“道守”カリキュラム改善検討委員会から提案されたカリキュラムを審議し決定のうえ試行する。
体  制:長崎大学担当教員、長崎県土木部長、長崎県建設業協会会長、長崎県測量設計コンサルタンツ協会会長、長崎県建設技術研究センター理事長
(b)“道守”カリキュラム改善検討委員会
目  的:カリキュラム検討WG(全体)と連携し、現道守カリキュラムの改善を図り、地域版学び直しプログラムの原案を作成する。
体  制:長崎大学担当教員、長崎県土木部建設企画課長、長崎県土木部道路維持課長、長崎県建設業協会専務理事、長崎県測量設計コンサルタンツ協会技術委員会副委員長、長崎県建設技術研究センター技術部長、道守認定者

②調査等
(a)砂防・河川・港湾等に道守の分野を拡大するにあたって、県の関係部署、関係団体、市町にヒアリング調査を実施する。また、既存の関連する分野の研修内容の資料を収集する。
(b)道守補助員の定着状況、ネーミング、活用方策に関する調査を県内各地で調査して活用方策 を検討する。
(c)国土交通省による維持管理に関する民間資格の認定や維持管理に関する研修に道守のカリキュラムを反映させるために、資料収集やヒアリングを実施する。

③モデルカリキュラム基準、達成度評価、教材等作成
(a)学習ユニット積み上げ方式カリキュラムの科目および水準の作成
目  的:既に長崎大学で実施している道守養成講座を改善し、社会人の学びやすさを考慮した体系的な学習ユニット積み上げ方式カリキュラムの科目および水準を明らかにする。
規  模:全国展開が可能な学習ユニット積み上げ方式カリキュラムを構築する。
実施方法:昨年度のニーズ調査及び④の結果等を踏まえ、“道守”カリキュラム改善検討委員会で原案を作成するとともに、“道守”養成ユニット運営協議会で決定する。
(b)地域版オーダーメード型カリキュラムの科目および水準の作成
目  的:コンソーシアム会議と連携を図りながら、道守養成講座の砂防・河川・港湾などへの分野拡大を検討し、長崎地域において、地元の企業、業界団体、自治体等の人財ニーズを踏まえたオーダーメイド型カリキュラムの科目および水準を明らかにする。
規  模:長崎地域に特化したオーダーメイド型カリキュラムを構築する。
実施方法:昨年度のニーズ調査および④の結果等を踏まえ、“道守”カリキュラム改善検討委員会で原案を作成するとともに、“道守”養成ユニット運営協議会で決定する。
(c)e-ラーニング教材の開発
目  的:長崎は離島が多いことから、社会人の学びやすさのために、講義にDVDを用いることが効果的であり、多忙な自治体職員の研修にも有効である。さらに、本事業終了後の自立した運営にも有効であることが見込める。
規  模:地域版学び直しプログラム(レベル1:道守補)講座の講義部分(15時間相当)の講座を想定した教材を作成
実施方法:外部業者に依頼し、講義担当者の講義を撮影編集

④実証等
前年度の調査結果を基にカリキュラム改善を検討し、改良された講座の試行を行う。その結果を受けてコンソーシアムのカリキュラム検討WGにて検証する。カリキュラムの試行結果に基づいて、全国的なニーズを余すことなく捉え(コアカリキュラム)、かつそれぞれの地域の要望にも対応できるカリキュラム(ローカルカリキュラム)を策定し、「インフラ再生の総合技術者」を地域において輩出する。なお、離島での講義の実施においては、開発するe-ラーニング教材とともに、長崎大学で保有するテレビ会議システムを使用した実施方法について検討する。
(a)地域版学び直しプログラム(入門レベル:道守補助員)講座の実施
目   的:地域版学び直しカリキュラム(入門レベル)の改善と実施
対象、規模:一般市民、民間企業より3会場10名、計30名程度
時   期:8月上旬、12月上旬で3回、1日間(1日6時間)
手   法:離島等現地への出前講座(講義、実習)
実施方法:大学教職員、著名外部講師および道守認定者による実証講座の実施
(b)地域版学び直しプログラム(レベル1:道守補)講座の実施
目   的:地域版学び直しカリキュラム(レベル1)の改善と実施
対象、規模:自治体職員、民間企業より20名程度
時   期:8月中旬より5日間(1日8時間)
手   法:講義(離島などではDVDを利用、テレビ会議システムの試行)、演習、実習
実施方法:大学教職員、著名外部講師および道守認定者による実証講座の実施
(c)地域版学び直しプログラム(レベル2:特定道守)講座の実施
目   的:地域版学び直しカリキュラム(レベル2)の改善と実施
対象、規模:自治体職員、民間企業より5名程度
時   期:8月中旬より13日間(1日6時間)
手   法:講義(離島などではDVDを利用、テレビ会議システムの試行)、演習、実習
実施方法:大学教職員、著名外部講師および道守認定者による実証講座の実施
(d)地域版学び直しプログラム(レベル2:特定道守、レベル3:道守)の改善
目  的:地域版学び直しカリキュラム(レベル2、レベル3)の改善
実施方法:これまでのカリキュラムを検証し、“道守”カリキュラム改善検討委員会で改善案の作成
(e)地域版学び直しプログラム(初級レベル:初級インフラ研修)講座の試行
目   的:昨年度のニーズ調査結果を踏まえ、2日程度の地域版学び直しカリキュラム(初級)の試行
対象、規模:自治体職員15名程度
時期:9月下旬より2日間(1日7時間)
手法:講義、演習、実習
実施方法:大学教職員、著名外部講師および道守認定者による実証講座の実施

実施状況に関して詳しくは
これまでの報告書をご参照ください。